古い海図の端っこには昔、こう書かれていたそうだ。
Here be dragons.(この先、竜あり)
未知の海域。まだ測量されていない場所。
だから恐れもあり、想像もあり、期待もある。
今の私は、そんな地点に立っている気がする。
家を手放してからの3年間、変化が大きかった。それまでの生活は、家と会社の往復…ですらない。フルタイム在宅ワーカーの私は、息子の保育園へ送って迎えに行く、それだけの平穏な日々だった。それが一転、今晩どこでお風呂に入り、どこで眠るかも決めていない日々だ。
バンでの暮らしをしばらくしたあと、たいていの人は再び定住を選ぶ。当初は、それに抵抗があった。せっかく手放したのにまた手に入れるのは、過去の自分の選択に負けたみたいだ。
でも最近は考えが変わった。それは「負け」ではない。踏まえて乗り越えた上での「選び直し」なのだ。あらゆることを経験した上で、いまの自分にとってはどういう形が最適なのか、あらためて選ぶ。結果として同じようなものを選ぶ可能性はもちろんあるが、そこにはきちんと意味が重ねられていると確信している。
私はひとまず、次の拠点は海外を選んだ。これまでの人生の海図はかなり描いてきたと思う。嵐の場所も、港の場所も、潮のくせもある程度見れた。でもその地図はもう終わりに近づいている。そしてこの先には、まだ見たことがない白い海が、ほぼ無限に広がっている。
日々のさざなみ(もしくは大波)は、たいていは人間関係から起こる。海外に行くということは、今までの人間関係とは物理的に距離をつくること。物理的距離が必ずしも心理的距離とは比例しないが、比例してしまう人間関係もあると思う。
そのことを寂しく思う反面、新体験として楽しみに思う気持ちもある。
先にいる竜でも見に行ってみようか。