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移動を始めてからの
再最適化

RESET

家を手放したとき、私はずいぶん暮らしを小さくした。持ち物を減らし、固定費を減らし、車に収まるだけの生活にした。ずいぶん身軽になったつもりだった。

でも、移動を続けるようになってから気づいた。暮らしは、一度小さくすれば終わりではなかった。

新しい街に着くと、まずスーパーを探す。どこで水を買うか。野菜はどこが安いか。仕事の合間に寄れる店はどこか。歩いて行けるのか、バスに乗るのか。

数日すると、少しずつ分かってくる。この道を通れば早い。ここなら必要なものが揃う。この時間なら混んでいない。疲れた日はここに行けばいい。

そうやって、知らない街だった場所に小さな「いつも」ができる。暮らしが少し楽になる。

そして、移動する。

次の街では、また最初からだ。スーパーの棚も、バスの乗り方も、歩きやすい道も知らない。前の街で覚えたことの多くは、その場所に置いていく。

身軽に暮らすというのは、何も持たないことだと思っていた。でも実際には、移動するたびに、たくさんのことを覚えている。そして移動するたびに、その一部を手放している。

家賃や交通費なら、いくら使ったか分かる。けれど、新しい街を「暮らせる場所」にするまでに使った時間や、何度も選び直したことには、明細がない。

それでも、数週間もするとまた生活は整ってくる。知らなかった道が、いつもの道になる。

その頃には、次の街へ移る日が近づいている。